厚生労働省報告から見る日本におけるAEDの現状

厚生労働省報告から見る日本におけるAEDの現状

自動体外式除細動器(AED)は、世界中の救急医療システムにおいて欠かせない存在となっています。日本では、2004年に非医療従事者による使用が許可されて以来、設置が大幅に進んでいます。本記事では、厚生労働省の最新の報告書【全国の AED の販売台数調査と正確な AED 設置台数の把握を可能にする体制と手法の検討: AED の販売台数と設置台数の全国調査(田邊晴山氏、横田裕行氏)】をもとに、日本におけるAEDの現状、利用状況、課題についてご紹介します。


全国のAED設置状況

2023年時点で、日本国内で累計137万台以上のAEDが販売され、そのうち約69万台が稼働中と推定されています。耐用年数が7~8年と限られているため、設置台数は販売台数よりも少ない現状があります。以下に主な統計をまとめました:

指標数値
2023年の販売台数100,794台
2023年末時点の稼働台数約690,000台
年間のAED使用件数約1,970件

※報告書の図表2(4ページ)には、年間販売台数の推移が示されており、図表4(16ページ)では都道府県別の設置台数が示されています。特に東京都では14,856台が設置されており、全国で最も多い地域となっています。


利用状況と効果

AEDは緊急時において極めて効果的な救命ツールです。2022年には、公的な場に設置された343台に1台の割合で電気ショックが実施されました。その結果、一般市民が目撃した心停止に対するAED介入による救命率は42.6%と高い水準を維持しています。

※図表10(18ページ)には、過去10年間の1,000台あたりの使用件数の推移が示されており、設置台数の増加に伴う利用率の改善が見られます。


AED管理における課題

設置が進む一方で、以下のような課題が指摘されています:

  1. 設置台数の追跡:全国的かつ強制的な登録制度がないため、正確な台数の把握が困難。
  2. 廃棄および更新管理:耐用年数を過ぎたAEDの廃棄登録率は59.4%にとどまっており、回収率向上が求められています。
  3. 市民の理解不足:AEDの使用に不安を感じる市民が多く、特に誤操作や傷害への懸念が障壁となっています。

今後の展望

報告書では、通信機能を搭載した「スマートAED」の普及が管理の改善につながる可能性が示唆されています。これにより、リアルタイムでAEDの状態や設置場所を把握できるようになり、適切な管理が可能になります。

さらに、公共向けの講習会の充実や、全国的な廃棄およびリサイクル体制の構築が重要とされています。例えば、自動車リサイクル法のような仕組みを参考に、購入時に廃棄費用を前払いする仕組みが有効と考えられます。


まとめ

AEDは、日本の救急医療体制において欠かせない存在であり、毎年多くの命を救っています。しかし、管理体制の向上や市民の理解促進など、まだ克服すべき課題が残されています。これらの課題を解決することで、さらに多くの命を救うことができるでしょう。

厚生労働省の報告書が示すデータと提案は、今後のAED活用と管理における重要な指針となります。救命の可能性を広げるため、全ての関係者が協力し合う必要があるとまとめられていました。


参考文献

〇令和5年度厚生労働科学研究費補助金(循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究事業) 『AED の適切な利用環境の構築に向けた研究』 分担研究報告書 全国の AED の販売台数調査と正確な AED 設置台数の把握を可能にする体制と手法の検討: AED の販売台数と設置台数の全国調査